海外でプレーする前にJリーグを経験すべき3つの理由

前回の記事、Jリーグを経由せず海外に行き失敗した日本人プレイヤー3選で、これまでJリーグを経験せず海外に移籍し、試合に出れない期間が長かった3人を取り上げた。

今回は、彼らを参考にしながら、私が、選手が海外でプレーする前にJリーグを経験すべきだと考える3つの理由を書きたい。


その前にまず前回の記事で彼ら3選手のことをなぜ「失敗」という表現をしたのか述べたい。

前回の記事でもふれたように、成功や失敗は第三者からであっても意見が分かれることであり、何をもって成功か、逆に何をもって失敗かということに絶対的な基準はない。


槙野も、自分のドイツ移籍について、後にこう語っている。


「自分が経験したから後輩に伝えられることがある。ヨーロッパから戻ってくると、どうしても『失敗』と見られるじゃないですか。でも、成功か失敗かは自分にしか分からない。得られたものがあるなら、堂々と胸を張ってほしい」
引用- 『成功か失敗かは自分にしか分からない」。槙野智章が財産を手にした激動の2011年――欧州挑戦の真実』 サッカーダイジェストWeb


槙野の言っているとおり、成功か、失敗かは究極的には個人にゆだねられる。サッカー面においても、サッカー以外の面においても、海外に行ったことを選手自身はプラスだと思うかもしれない。


ただ、ここで日本人選手の欧州への移籍を個人の視点から、日本サッカー全体の視点に変えてみる。

槙野が欧州に移籍できたのは、当たり前だが槙野だけの力ではない。槙野がケルンに加入した2010年12月はちょうど香川がドルトムントに加入してから半年後で、香川がドイツで旋風を巻き起こしていたときである。

つまり、日本人の株が急上昇していた時で、槙野がその影響を受けたことは間違いない。

槙野がケルンに移籍した経緯が、サンフレッチェにいたときからオファーを受けていたわけではなく、現地で他チームに練習参加をしていた時というタイミングから考えても、それまでの日本人の活躍が槙野の移籍を後押ししたことは間違いないだろう。

逆に言えば、槙野の出来もその後の日本人選手の海外移籍の可否を左右することになる。

仮に槙野が海外移籍した経験を成功だと思っていても、海外に言った選手が試合に出れなければ、 当然日本人の評価は下がっていくので、他の日本人が海外に移籍するのは難しくなる。

実際、ドイツであれば、すでに多くの日本人がプレーしてきたので、コネクションも含めて、日本人の地位は盤石だとかもしれないが、フランスやスペインでは、まだまだ個人の活躍が日本人全体の評価になると思われる。

つまり何が言いたいかというと、個人にとっての成功と全体にとっての成功は違うということだ。

そして、槙野同様、前回の記事で上げた3人も、日本サッカーにとって、成功したプレーヤーではないといえる。

そういう意味で、前回の記事では「失敗」という表現をした。ただ、「失敗」と言い切るのは選手に対して失礼なので、その表現をしないことにする。

前回では、Jリーグを経由せず海外移籍してうまくいかなかった選手の事例を挙げたが、私は、海外に行く前にJリーグを経験するべきだと考える。理由は、以下の3つによる。


1 日本人の成長速度

2 怪我

3 ミスマッチ


1 日本人の成長速度

メッシは若干20歳でバルサで出場機会を掴み、リーガで14ゴールを挙げた。ネイマールは、21歳でバルサに移籍し、23歳でCL得点王になった。

彼らは正真正銘の世界トップクラスの選手だが、彼ら以外にも欧州では10代後半や21、22の年齢でチームの中心選手として活躍するのは珍しいことではない。


一方日本人はその年齢で、堂々とチームの中心に躍り出る者は極めて少ない。では、多くの若手がエースとして君臨している海外に比べると、まだ各チームの顔はベテランが占めるJリーグは危機的状況なのだろうか。私はそうは思っていない。

なぜなら、日本人と欧州の選手では、身長や筋肉のつき方が違うように、プレーが出来上がってくる年齢も違うと思うからだ。

風間監督は自身の著書でこう語っている。

世界では「18歳から伸びない」と考える傾向にありますが、日本はその逆、「18歳から伸びる」という考え方が定着しているといえるでしょう。
引用- 風間塾 サッカーを進化させる「非常識」論 朝日新聞出版

風間監督が言っているとおり、まず、世界と日本ではシステム上年齢の考え方が違う。

日本では多くの学生が高校から、大学に上がり、その4年間で将来を模索し、卒業後、社会人として教育され、だんだん独り立ちしていくのが主流だ。

それに対して欧米では、18歳になれば、ある程度将来の方向性は決まっていて、その道に対しての覚悟もできている人が多い。

ここにまず、同じ18歳という年齢でも日本人と欧米人では大きな違いがあることがわかる。これはサッカー選手も例外ではない。

違いがあるのは精神面だけではない。


アトレティコユースでプレーしていた玉乃淳さんは自身のユース時代を振り返りこう述べている。

「10代後半になると、体の育ち方が全然変わってくる。向こうの選手は筋トレをすればするだけ、どんどんたくましくなっていき、日々筋肉量の差を見せつけられました」
引用- 特別レポート 海を渡ったスポーツ天才少年たち 誰もが錦織圭になれるわけじゃない その光と影 現代ビジネス

肉体の成長も大きく異なるのだ。

欧米では、ユース年代からどんどん筋トレをするようだが、では日本人もそうすべきなのか?ということ考えると疑問符が付く。

わざわざ数字で比較するまでもなく日本人と欧米人の体つきは違う。

当たり前のことだが、体の成長速度に合わせてトレーニング方法は変えるべきである。


筑波大学でサッカー部を教えていた風間監督、実際に海外のユースでプレーしていた玉乃淳さんが日本人と欧米人(サッカーにおける世界)との成長の仕方の違いを語っている。

この二人の発言からわかることは、教育も、トレーニングも違う、日本と欧米は完全に別のサイクルで動いている。

高卒、または大卒でそのまま海外に行くことは、ある一貫したシステムを逸脱して、全くの別世界にいきなり飛び込むことになる。

突然、対戦相手がサッカーを生業にしている人になるだけでなく、技術的、体力的に桁外れな戦いを強いられるのだ。

その前にJリーグで海外経験のある選手や、ベテラン選手、外国人選手とやりあうことが十分海外でプレーする準備になるのではと思う。

武藤がチェルシーに行かず、マインツを選んだように自らの実力を認識したうえで、次のステージがどこなのかチョイスしないと後述するように大怪我につながったり、出場機会が全く得られなかったり、ということになる。


2 怪我

2つ目の理由は怪我だ。これまで若くして海を渡った多くの選手がまだ若いうちに大怪我を負っている。

選手名怪我した時の年齢怪我名
森本貴幸18左膝前十字靭帯断裂
小野裕二20左膝靭帯断裂
長澤和輝23左膝内側靭帯断裂
宮市亮22左膝前十字靭帯断裂

筆者の記憶の限りでもこれだけの選手が膝の靭帯を切るという大怪我を負っている。

膝の靭帯断裂は骨折や肉離れに比べて、治った後も動きやキレが元に戻らなくなったり、他の箇所にガタが来て怪我がちになる選手が多い。

小野伸二はつい最近の記事で18歳で左膝靭帯断裂のケガをしたことをこう語っている。


「今でも、『あれがなかったらなあ、どうだったんだろうなあ』と思うことは思います。でも、そんなこと言っても……。今でも、そうですね。自分にとってプロサッカー人生でピークはどこといったら、やっぱりあのころですね。僕が一番よかったなと思う時期は。現在は周りに言われてるほどではないと思うし、『自分が納得してサッカーやってたな』と思うのが、やっぱりあのときぐらいだったんで、全然違いますね」
引用- 小野伸二が語る“運命を変えた一戦”。「プロサッカー人生でピークは……」 Number


もちろん日本でプレーしている選手でも靭帯を断裂する選手はいるが、1チームにシーズン1人いるかいないかくらいの人数である。

上記のうち、森本、宮市は10代で海外に渡った選手だ。小野裕二は2シーズン横浜FMでスタメンでプレーしたのちで、長澤は大卒だ。つまりJでの経験がない、または少ない選手が海外で大怪我しているという見方もできる。

現代表の海外組で、膝の靭帯を切った選手は私の記憶の限りはいない。そして彼らはみなJリーグで3年以上プレーしている。

もちろん日本国内でも若い選手で、靭帯断裂を負ってしまう選手もいる。例えば、高卒で名古屋に加入した小屋松はJリーグデビュー戦で左膝前十字靭帯断裂している。

ただ、10代で海外に渡る選手がほとんどいないことを考えれば、靭帯を断裂する選手が明らかに多すぎる。

その理由の一つとして、海外の当たりの激しさがある。

上のリストでいえば、小野裕二以外はJのシーズンをスタメンで1シーズン経験した選手はいない。

Jリーグを経由せず海外に行く選手の対戦相手は、日本の同世代→海外のプロになるわけだ。それは怪我しないほうがおかしい。Jリーグを経験しても海外の選手とやりあえるようになるとは限らないが、少なくとも体の使い方のベースはできる。

海外組の中でJリーグを3年以上経験した選手で、靭帯を断裂した選手はおそらくいないのは、自分より当たりが強い相手との当たり方や力の使い方を習得しているからではないだろうか。

長澤は怪我した時のことをこう振り返っている。

そんなにラフなタックルは今までほとんど受けたことがありませんでしたし、オフシーズン明けの最初のキャンプ時でしたから、正直、「そんなにキツく来るのかよ」って思いましたね(苦笑)。
引用- 海外挑戦2年目を終えたケルン長澤が今季を総括「50点以下。代表の前にまずはクラブで活躍しないと」 サッカーキング

やはり靭帯を断裂するときは予想外の当たりや予想外のタックルを受けたときが多いと思われるが、Jリーグを経験することで、その予想がある程度できるようになるのかもしれない。

このように若くして海外に言った選手で大怪我をしてしまうケースが多いことも、私がJリーグを経験してから海外に移籍するべきだと思う理由の一つだ。


3 ミスマッチ

3つ目の理由は、クラブがほしい人材と実際に獲得する選手のミスマッチだ。

海外のクラブが日本人を獲得した際に実際に欲しかったようなタイプの選手でなかったというケースがある。

例えば、ドリブラーがほしかったのにパサーだったり、ストライカーだと思っていたのに1.5列目の選手だったり。

Jリーグのクラブでもこういうことはよく起こっているが、獲得した選手がイメージと違うことが多いのは、日本人を獲得するときだろうか、それともブラジル人など外国人選手を獲得するときだろうか。

答えは言うまでもなく外国人選手だろう。

なぜかというと、日本人選手より情報が少ないからだ。そして、異なる土地、異なる文化、異なるサッカースタイルに適応できるかどうか未知数だからだ。


同じことは海外のクラブが日本人選手を獲得するときにも当てはまる。

このように、国籍の違いというただでさえミスマッチが起こりやすい状況で、Jリーグを経由していない日本人選手は、プレー映像も実績もJリーグでプレーした選手より少ないので、よりミスマッチが起こりやすい状況にある。

さらに Jリーグを経由していない日本人選手は獲得するのにお金がかからないので、クラブからすれば獲得するリスクが少ない。結果として、移籍金がかかる選手ほど、獲得すべきかどうかを熟考することなく獲得することになる。

よって、よりミスマッチが起こりやすくなる。

Jリーグのクラブであれば、高校や大学も常にチェックしているだろうし、どんな選手が戦術にマッチするかもわかっているので、海外のクラブより、的確な日本人を獲得できることは間違いない。

ミスマッチが起こりやすいことも海外に行く前にJリーグを経由するべきだと考える理由の一つだ。

まとめ

ここまで私が若くして海外に行く前にJリーグを挟むべきだと考える理由を述べてきた。

前回は、ただ、選手を挙げるだけで終わってしまったので、今回はそれを踏まえて、なぜ高卒、大卒→海外の事例がうまくいかないのかを考えた。

ただ、現実的には、Jリーグにルーキーの年俸上限があることや久保建英の例などから、若い選手の海外進出は加速していくと思われる。それにより、才能があるにもかかわらず、それを伸ばし切れなかったり、怪我で長期離脱したり、ということがないことを願う。

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